体に悪い油のひとつ、「トランス脂肪酸」。
海外では表示が義務付けられたり、使用が規制されたりしています。
実は、普段何気なく食べている食材にも多く含まれていて「気付かぬうちに大量に摂取していた」なんてことも充分にあり得ます。
心筋梗塞や狭心症など、健康上の問題とも根深い関係にあるトランス脂肪酸。
この記事では、身近な食品にも含まれるトランス脂肪酸のリスクや、トランス脂肪酸を含む食材を紹介していますので、これを機に普段の食生活を振り返ってみましょう。
トランス脂肪酸とは?どんな脂質なの?
トランス脂肪酸は、油の主成分である「脂肪酸」の一種で、天然の油にはあまり存在しない特殊な構造をしています。油脂の加工などで多く発生し、摂り過ぎると健康に影響するため、海外では規制する動きが広がっています。
トランス脂肪酸の健康リスク
トランス脂肪酸の健康リスクについて、懸念されているのは、心血管疾患への影響です。
トランス脂肪酸を多く摂る人は、少ない人に比べて、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈性疾患の発症リスクが高くなることが示されています1)。
他にも、肥満やアレルギー疾患との関連が認められています。
出典 1)食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合 (2003)
トランス脂肪酸と心血管疾患の関係
トランス脂肪酸は血液中のLDLコレステロールを増やし、HDLコレステロールを減らすことが分かっています。
LDLはいわゆる「悪玉コレステロール」、HDLは「善玉コレステロール」です。
血中に悪玉コレステロールが増えると動脈硬化の原因になり、心血管疾患を引き起こすと考えられています。
海外では摂取量が規制されている
WHO(世界保健機関)は、油脂の加工で生じるトランス脂肪酸は健康上のメリットがないとしたうえで、「工業的な食品添加物と見なすべき」としています。
こうした事実から、アメリカをはじめとする諸外国では、トランス脂肪酸の規制が設けられているのです。
トランス脂肪酸が含まれている食品
トランス脂肪酸には、天然にできるものと油脂の加工・精製の過程でできるものがあり、以下のような食品に含まれています。
牛肉、羊肉、乳製品
天然のトランス脂肪酸は、牛や羊などの反芻(はんすう)動物の胃の中にいる微生物の働きによってつくられます。
そのため、牛肉や羊肉、乳製品の中には、ごく微量のトランス脂肪酸が含まれています。
部分水素添加油脂(マーガリンやショートニングなどの原料)
トランス脂肪酸は、油に水素を添加する時に多く発生します。
油に水素を添加するのは、常温で液体の油を少し硬くするためです。
マーガリンやショートニングは部分水素添加油脂を原料に使うことがあるため、トランス脂肪酸を多く含むものがあります。
菓子類やファストフードなど
家庭用のマーガリン類では部分水素添加油脂を使わない商品も増えています。しかし、パンや焼き菓子、スナック類などの原料として、部分水素添加油脂を使用したマーガリンやショートニングなどが使われている可能性があります。
食べる量からしても、トランス脂肪酸の主な摂取源は、菓子類やファストフードだとされています。
サラダ油や揚げ物の衣
植物や魚から抽出した油を精製する工程で、嫌な臭いを取り除くための高温処理を行う場合があります。
この時にトランス脂肪酸が発生するため、サラダ油などの精製された植物油や、それを使った揚げ物の衣にも、微量のトランス脂肪酸が含まれます。
トランス脂肪酸をできるだけ摂らない食生活とは?
トランス脂肪酸は加工油脂だけでなく、それらを原料とした加工食品や乳製品にも含まれるため、全く摂らないようにするのは難しいです。
では、どのくらい気にすれば良いのでしょうか?
摂取目安は総エネルギー量の「1%未満」
WHOはトランス脂肪酸の摂取量を「総エネルギー摂取量の1%未満」にすることを目標としています。
日本人のエネルギー摂取量の平均は1900kcalなので、その1%に相当する量は約2gです。
農林水産省の調査によれば、日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量は1g以下、総エネルギー摂取量の0.3%と推定しており、WHOの基準には達していないといわれています。
しかし、厚生労働省が策定している「日本人の食事摂取基準(2020)」では、トランス脂肪酸の目標量は定められていないものの、今よりもできるだけ減らすことを推奨しています。
「和食」中心の食生活なら大丈夫
日本人はもともとトランス脂肪酸の摂取量が少ない食生活をしているといわれています。
お米、味噌汁、魚料理、野菜のお浸しや煮物、納豆や豆腐などの典型的な和食には、トランス脂肪酸がほとんど含まれません。
ところが最近は、お米ではなくパンを食べる人が増えています。
主食がパンになると乳製品の摂取量が増え、主菜は魚より肉類が多くなるでしょう。
野菜もサラダにすると、マヨネーズやドレッシングをかけるようになります。
パン・乳製品・牛肉・マヨネーズ・ドレッシングなどに含まれる油脂に、トランス脂肪酸が含まれているのです。
なので、トランス脂肪酸をできるだけ減らすためには、「和食」を中心とした食生活にするのがオススメです。
脂質の摂り過ぎに要注意
アメリカではトランス脂肪酸の摂り過ぎが問題になっていますが、日本人でも脂質に偏った食生活をしている人は注意が必要です。
和食に比べて洋食や中華料理は脂質が多く、脂質の摂り過ぎはトランス脂肪酸の摂り過ぎにつながります。
トランス脂肪酸が少ない「良質な油」とは?
トランス脂肪酸の摂取量をできるだけ減らすには、家庭で常備している油も見直すと良いでしょう。トランス脂肪酸を含まない「良質な油」をご紹介します。
オリーブオイル(オメガ9=オレイン酸)
オリーブオイルは体に良い油の代表格。風味豊かなエキストラバージンオリーブオイルには、悪玉コレステロールを抑制するオメガ9脂肪酸の「オレイン酸」をはじめ、抗酸化作用のあるポリフェノールやビタミンEも豊富に含まれるため、美容効果も期待できます。
しかし、安価なオリーブオイルにはトランス脂肪酸が含まれるものもあるので要注意。
厳しい基準をクリアしたエキストラバージンオリーブオイルなら、トランス脂肪酸が発生するような処理が行われていないため安心です。
詳しくは、オリーブオイルの効果ってなに?をご参照ください。
亜麻仁油(オメガ3=α-リノレン酸)
亜麻仁油もトランス脂肪酸をほとんど含まない健康的な油です。主成分はオメガ3脂肪酸の「α-リノレン酸」で、体内で合成できないため、食事から摂取する必要があります。
オメガ3脂肪酸としては青魚に含まれる「DHA」や「EPA」が有名ですが、実はα-リノレン酸を摂れば、DHAやEPAは体内で合成することができます。
オメガ3脂肪酸は血中の善玉コレステロールを増やし、中性脂肪を減らす効果が認められています。その他、認知機能の低下やアレルギーを防ぐ働きもあるため、積極的に摂るようにしましょう。
詳しくは、亜麻仁油の健康効果とは?をご参照ください。
MCTオイル(中鎖脂肪酸=飽和脂肪酸)
MCTオイルは炭素の鎖の長さが中くらいの「中鎖脂肪酸」だけで作られており、トランス脂肪酸を含まない健康的な油です。
中鎖脂肪酸はココナッツやパームに多い成分で、消化吸収が早く、エネルギーになりやすいのが特徴。「ダイエットサポート」「認知症予防」「持久力の向上」など、さまざまな健康効果があるとされています。
詳しくは、飲む健康油!体に嬉しいMCTオイルの4つの効果!いつから効果が出るの?をご参照ください。
まとめ
トランス脂肪酸がどうして体に悪いと言われるのか、お分かりいただけましたか?
マーガリンやショートニングだけでなく、サラダ油や揚げ物、パンやケーキ、スナック菓子、乳製品にも含まれるトランス脂肪酸。摂り過ぎると心血管疾患のリスクが高くなるため、できるだけ減らしたほうが良いでしょう。
トランス脂肪酸を減らすには、ごはんと味噌汁を柱とした、昔ながらの和食がオススメ。また、毎日の料理に使う油も、トランス脂肪酸を含まないものにしたいですね。